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伝承・伝説 九千部山の祈り

イラスト:隆信沙門が荒れ果てた畑を眺めているところ 平安時代の半ばごろ、藤原一族が摂政関白を占めていた時代のお話です。天暦5年(951年)、人々は疫病の流行と天災が重なり苦しんでいました。綾部郷でも、たび重なる風水害のため村々は悲惨なありさまで、倒れた家や流された家畜も多く、村人は捨て子や疱瘡、飢えで生き倒れと、哀れな状態でした。

このころ、脊振山の名僧、性空上人の伴侶に隆信沙門という若い僧がおりました。隆信は、人々の苦しみを見て、法華経一万部を読み上げ、疫病退散、風水害除去、五穀豊穣の大誓願を決意しました。

村人たちは、これを聞いて隆信の悲願に感謝しました。しかし、その達成は難しいと思われ、「千年の姥塚から妖怪が出て人を食う」「七曲の四十八怪が襲う」「蛇が谷の大蛇が出るから危険だ」などといって、しきりに思いとどまらせようとしました。

しかし隆信は、人々が引きとめるのも聞かず、笠と杖を持ち、経巻を詰める笈(おい)を背負って、誓願に出発したのです。その態度は、一大勇猛心を起こし決然としていました。

隆信は見送る人々を振り返り、満願の日を50日と約束し、万一の場合を頼んだのでした。

経巻を背負い、谷川を登り、深道を抜けて、脊振東峯草の横山の風穴近い広場に着きました。
隆信は座禅し、49日を期限としてひたすら一万部読経に務めました。朝は東の空を仰ぎ、夕方には狭霧のたつ谷間を見下ろして、大願成就に精進し続けます。こうして千部、二千部と読み進むうちに、隆信の澄んだ声も掠れかすかになっていきました。

その声は絶えるかと思えば、暁の風によみがえり、やっと30日を過ぎました。飢えれば木の実を口にし、のどが渇けば笹の葉の露で潤して命をつなぎます。隆信もさすがにやせ衰えて、精力も尽き果てていました。
やがて、九千部の山頂は秋が深まり、やせてしまった隆信にはその風が肌身にしみました。時折、若い僧の胸に不安な思いがよぎります。「果たしてこの発願は神明に通じるだろうか」「人々の苦悩を救う霊験が得られるだろうか」。

満願の49日まであと7日、一万部の読経も残り少なくなった夜のことです。すすきの穂をわたる風はいつになく止み、脊振の山姿が幻のように見えていました。いつしか隆信はうつらうつらと・・・。
ぱっと目を開き読経を続ける丑三つ時、耳にふと妙な音が聞こえました。振り返って見回しても、景色はいつもと変わりません。「今夜はなんとなく不思議だ。おかしなこともあるものだ」と思いつつ読経を続けました。
しばらくすると、風穴あたりから赤い目をした白蛇が這い出てきました。じっと隆信を見つめ、そのうちどこへともなく姿を消しました。
すると生暖かい風が吹き、きぬずれの音がして、かぐわしい香りが漂ってきました。はっと振り返ると美しい女が立っていたのでした。

イラスト:隆信の背後に美女が立っているところ 女は「おいで、おいで」と手招きし、隆信は、一瞬、うわさに聞く基養父弁財天さまの来現かと思いました。しかし、風神の祈願に弁財天が現れるのはおかしく、まして、人間の女がこんな山奥に住んでいるはずもありません。これは鬼女に違いない。「鬼女よ、どけ、どけ」
しかし、女は手招きをやめようとしません。この世のものとも思われぬほど美しく、唇はほころび、ほほえみを浮かべています。隆信は、ついついその姿に心を奪われ、読経の声もとぎれがちになりました。

女は次の夜も現れました。次の夜も、次の夜も・・・。そのうちに隆信の村人を思う心は、女を待つ心に変わりはじめました。数珠をつまぐり、まぶたを閉じても女の姿は消えません。女が身を寄せたとき、隆信は夢うつつとなり「ああ、なんとかぐわしい匂いじゃ」「ああ、なんと柔らかい体じゃ」数珠をつまぐっていた手は、女をかき抱いていました。

写真:隆信の供養塔やがて満願の日がきました。九千部の山には相変わらず強い風が吹き荒れています。朝、大勢の村人が祈祷場にやってきましたが、隆信の姿は山頂にありませんでした。
やがて、谷間の岩陰から、やせ細った骨ばかりの骸が発見されました。村人たちは驚き悲しみ、その屍を葬りました。

その後、ここから西へ200メートル離れた風穴の地に、法華経を埋めて経塚としました。祈祷場には石を積み、左端に隆信の供養塔を建立し、中央に風神の級長津彦命、右端に級長津媛命の2柱を合祠したのでした。

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